2014年7月23日水曜日

[p.60] 「ひとつあたり」の図と「全部でどれだけ」の図

ミクロ経済学を勉強する上では、様々な図が登場します。それらを理解するために重要なのは、それが「ひとつあたり」の図なのか、それとも「全部でどれだけ」の図なのかを区別することです。

「ひとつあたり」の図とは

「ひとつあたり」の図の代表例は、需要曲線の図です。

54ページから60ページでは、個人の需要曲線とはどのようなものなのかを説明しました。需要曲線とは、注目している消費者が、価格がいくらのときにどのくらいの数量を買うのかという選択を表すものでした。例えば、図3.5として示した出川さんの需要曲線とは、次のようなものでしたね。

この図の縦軸の「価格」というのは一つあたりの価格、つまり単価でした。 そして、この図を見ると、価格が1000円のときには出川さんは10個買うこと、また500円のときには15個買うことが分かります。

また、縦軸の価格から対応する数量を読み取るのではなく、79ページから82ページで説明したように、横軸の数量から対応する高さを読み取ることで、消費者にとっての価値を知ることができます。この場合、出川さんにとって、この財・サービスの10個目の価値は1000円であることが分かります。ここで大事なのは、横軸の数量というのは「何個目」なのかを表しているということです。

「全部でどれだけ」の図とは

さて、この出川さんの需要曲線を、「全部でどれだけ」の図に書きかえてみましょう。

上では、比較しやすいように、先ほどの需要曲線の図の右側に「全部でどれだけ」の図を並べてみました。横軸は同じく数量であるのに対して、縦軸が、価格と金額という異なったものである点に注意してください。

それでは右側の図をどのように理解すれば良いのかを説明しましょう。

まずこのグラフは横軸の数量から高さを読み取る図です。青い曲線は、数量に対応する消費者の価値を表しています。例えば10のところの高さは、出川さんがこの財・サービスを10単位消費することによって、全部でどのくらいの満足度を得られるのかを表しています。そして数量が増えていくと、得られる満足度の大きさが増えていきますが、増え方が減っていくことが、この青い曲線から分かります。

次に、右上がりの赤い直線は、ひとつあたりの価格に応じて、出川さんが全部でどのくらい支払わなければならないのかを表しています。これが「全部でどれだけ」ということの意味です。(なお図の高さは、全部でどれだけの金額かを表しているので、縦軸が価格ではなく金額となっていることに注意してください。)

このように考えると、青い曲線と赤い直線の差が、消費者にとっての交換の利益(=消費者余剰)を表していることが分かります。収入から費用を引くと利潤が計算できるのと同じですね。この消費者余剰が最大になるような数量を、消費者は消費量として選択するのです。

右側の図からは、価格が1000円のときには、消費者余剰を最大にするのは10個買うこと、また価格が500円のときには15個買うことだというのが読み取ることができます。これは左側の需要曲線が表していることとまったく同じですね。

図の区別はとても大事

同じことを表すのに、「ひとつあたり」の図を使うことも「全部でどれだけ」の図を使うこともできます。そのときどきによって使いやすい方を使えば良いのですが、いま見ている図がどちらなのかは確実に理解し、混乱しないようにしましょう。 例えば42ページの図2.5では、デパートの営業時間について図で示されていますが、これは「全部でどれだけ」の図です。また独占を扱っている156ページの図7.7では、「全部でどれだけ」を描いた図と「ひとつあたり」の図が縦に並べられています。

それでは、図が違えば、同じ物事が違った形で表現されるということを具体例を用いてみておきましょう。先ほどの出川さんの需要曲線を二通りの表現で描いた場合について、価格が1000円のときに出川さんが得る消費者余剰の大きさは、図のどこに相当するでしょうか。

左のように「ひとつあたり」の図の場合には、一つ目から得られる余剰から10個目から得られる余剰までを足し合わせないといけないので、青い三角形の面積が消費者余剰となります。 これに対して右側の「全部でどれだけ」の図の場合には、10個目のところをみて、得られた価値から支払金額を引けば良いので、青い矢印の幅が消費者余剰となります。

図の縦軸や横軸が何を表しているのかをきちんと理解し、その意味を正確に捉えられるようにしましょう。

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