そしてその最初には「以下では、特定の財・サービスに対する個人の好みについて考えることにします。具体的には、その財・サービスの価格がいくらのときに、その人が何個欲しいと考えるのかを・・・グラフとして描くことから始めます。」という文章があります。
このグラフが需要曲線なのですが、もしかしたら「なぜ価格を前提として欲しい数を考える必要があるの?」とか「完全競争市場について考える際に、なぜ需要曲線の話から始まるの?」といった素朴な疑問を持つ人もいるかもしれません。
その理由は次の通りです。
まず完全競争市場というのは、取引をとても円滑に行うことができる環境であり、そのための条件の一つとして「取引が相場の価格で行われている」ことがありました。つまりどの買い手も、またどの売り手も、取引の際に価格についての交渉を行うことはなく、すでに決まっている市場価格を前提とした上で、買うなら何個買うか、また売るなら何個売るかだけを考える状況を考えていることになります。
完全競争市場の前提が満たされている場合には、同様に、生産者も、市場価格を前提として自分が生産しようとする数を考えることになります。
後になると扱いますが、たとえば生産者が独占状態にあるようなケースでは、その生産者が自分で価格を決定することが可能になります。そしてそのような場合には、供給曲線というものは議論をする際に登場しません。その代わりに限界費用曲線というものを考えます。
これに対して、完全競争市場について学ぶ段階では、あくまで価格が市場により決まっていて、価格交渉の余地がまったくない状態についての考察から話をスタートしているからこそ、需要曲線や供給曲線について考えることができるわけです。