2014年10月24日金曜日

[p. 20] ミクロ経済学の目的

19ページと20ページでは、まずミクロ経済学の目的は
「人々が合意の上で行う交換によって生み出される利益(=余剰)を最大限に実現させること」
であると説明しています。その上で
「個別の取引の決定を市場における人々の自発的な意思決定に任せたほうがよいのか、それとも政府による介入が必要なのか」
をこの教科書では考えていくと述べています。

このような記述を見て驚いた人もいるのではないでしょうか?

経済学は、個人の金銭的な利益追求しか考えていないと誤解されることあります。しかし、最終的な目的は、あくまで社会を良くすることです。ここで問題となるのは、個人の利益追求と社会全体の利益が一致しないことも多いという事実です。

経済学では、個人の満足度を最大にする選択について考えたり企業の利潤最大化を分析したりもします。しかしそれは個人の選択や行動を理解しなければ社会全体のための制度設計を考えることができないからです。望ましいルールを設定するためには、まずは人間を理解することが必要なのです。

「個人の選択を考える」というタイトルの第2章では、具体的に4つのキーワードを挙げて、個人の選択について考えていきます。そこではインセンティブ、トレードオフ、機会費用、限界的という言葉の意味を理解することにより、人間の選択についての理解が深まるはずです。

それに続く第3章と第4章では、市場が完全競争の条件を満たすときには、人々が自発的に取引活動を行うことを通じて、交換の利益を最大化させるという社会的な目的が自動的に達成できてしまうという驚くべき結果を学ぶことになります。

しかし現実の社会では、完全競争の前提条件が満たされていないことがほとんどです。そこで社会全体の利益のためには、人々の自由な経済活動に対して介入を行うことが必要になります 。

このとき教育や洗脳といった手段により人々の好みや考え方を変えさせるのではなく、うまいルールを作って、そのルールの範囲で自由に行動させることを通じて余剰の最大化を実現できるようにするというのが経済学における標準的な考え方です。 このような視点から、市場取引に対してどのような規制や介入が必要となるのかを第6章から第11章を通じて検討していきます。

2014年10月19日日曜日

[p.50] 完全競争市場とは

49ページから50ページにかけて、完全競争市場とはどのようなものかを説明しています。

まず完全競争市場とは、「取引に関する理想的な状況」であって、「注目している財・サービスが非常に円滑に取引されている状況のこと」だと述べた上で、具体的な前提条件として次の5個を挙げています。

1、その財・サービスを取引する市場が存在している。
2、その財・サービスについての情報を売り手と買い手の双方がそれなりによく知っている。
3、取引が相場の価格で行われている。
4、取引の際に必要となる手続きは、低コストで円滑に行われている。
5、その財・サービスの生産や消費に付随するすべての財・サービスについても市場が存在している。

それでは、なぜこの5つの条件が満たされていると、取引を円滑に行うことができるのでしょうか。

 まず売り手と買い手にとって、市場がなければ取引ができません。市場が存在していれば取引が容易に行えるでしょう(条件1)。
 また取引対象となる財・サービスの品質を取引当事者がよく分かっていなければ、取引時にその品質を確認することに時間とお金がかかると思われます。場合によっては、品質が分からなければ買い手は取引を諦めてしまうこともあるかもしれません。また、生産者側がその財・サービスを提供する際にどの程度の費用がかかるのを知らなければ、取引を行うことを躊躇するでしょう。これに対して必要な情報を持っていれば、安心して取引を行うことができます(条件2)。
 次に、取引を行う際に、売り手と買い手の間で価格交渉を行うことには、時間と手間がかかります。しかし、市場の相場の価格が決まっていれば、その価格で売るか否か、また買うか否かを決めればよいという意味で、容易に取引の判断を行うことができます(条件3)。
 このように取引の際に価格交渉をすることだけでなく、取引相手を探したり、相手に会うために移動したりすることに費用がかからなければ、それも取引を容易に行うことの助けとなります(条件4)。
 そして取引の影響が、当事者たちの間で完結していて、第三者に対して良い影響や悪い影響を与えることがなければ、他者による陳情やクレーム、介入を受けることなく取引を行うことができます(条件5)。

完全競争市場とは、あくまで取引を円滑に行うことができる理想的な状況です。現実の経済活動がこのように行われているわけではありません。しかし、このような理想的環境について考えてみることが、市場取引についての私たちの理解を助けてくれるのです。